2011年3月19日土曜日

【ごめん1077文字 777文字超過】

「お一人様一点限り」

 空のエコバッグを持った人々が競歩になってます。いつもなら夕方しか混まないスーパーが土曜の朝、開店直後から大混雑です。大盛況です。そうです。今回の国難で買物戦争が勃発したのです。

「レジの様子はどうだ!」
「はい。まだそんなに並んでいません!」
 入口付近で店長らしき男性が、従業員にレジの滞留状況を確認してます。軍隊口調です。有事です。

 早口で流れる店内放送。
「ただいま商品の入荷が支障をきたしているため、牛乳、納豆、トイレットペーパーなど、一部の商品は『お一人様一点限り』とさせていただいております。それらの商品を2点以上、カゴに入れられましても、レジにて回収させていただいておりますので、何卒ご協力をお願いいたします」

 売り場の照明も五割程度は落とされており、明らかに非常時モード。買い物をする動機の一つが不安心理であるとすればその効果は絶大だった。だれもがカートの上下に二個のカゴをセットして大量買いモード。

 かく言う私は、取り合いになるような人気商品ではなく、ちょうど切らしていた海苔とお菓子と肉などをカゴに入れた。いつも通りの量。完全にやる気なしモード。

 私は納豆をこれまで十分に食べてきた。毎日ではないが、週に一回は食べていた。もう未練はない。納豆がなくても生きていく。悲しいけど年に一回でも食べられればよしとしよう。って、感傷に浸っている場合ではない。レジの列が長くならないうちに並ぶべし。

 ところがである。

 どのレジも列の動きが明らかに遅い。私の列の前方で老夫婦がレジの店員と押し問答を始めた。「お一人様一点限り」を二点買いたいと女性がゴリ押ししている。側にいる困惑顔の男性を指差して2人だと主張。いつもなら家で留守番をしていたところを「お一人様一点限り」要員として出動要請を受けた夫と思われる。よちよち歩きの小さな子供に「お一人様一点限り」の重い醤油瓶を持たせるような常套手段ではあるが、今回は禁じ手のようだ。

 そこでオバサンは考えた。二つ目のカゴを指差し、
「じゃあ、こっちのカゴは別のレシートで」

 その手があったか!

 ようやく列は動いた。あともう一人で私の番だ。どうかモメないで通過してくれ。

 私の念力が通じたようだ。私のすぐ前のオバサンはカゴの底のほうに隠していた二点目の「お一人様一点限り」を事前申告し、会計前に返却した。

 ただでさえ大混雑しているのに、本来のレジ業務以外で、こんなことばかりやっているから、列の進み具合がいつもの数倍は遅い。やっと私の番がきた。

「いま戻された納豆をください」
 店員の足元は、没収された「お一人様一点限り」が山積みだったのである。