2011年6月24日金曜日

【300文字小説】

届け先は…

 
久しぶりの休暇。今日は昼頃までゆっくり寝ていることにしよう。と思ったとき、枕元に置いてあったケータイが鳴った。

「お仕事中、申し訳ありませんが、大事なお知らせがございまして……」
最近こういう電話が多い。せっかくの休みなのにあまり嬉しくない。適当にあしらうことにする。
「どうでもいいけどいま仕事中なんで切りますよ」
「大事なお知らせを聞きたくないですか」
「はいはい。どんなお知らせですか」
「いますぐ、ありったけの現金を持ってきてください」
正体を現したな。こういうときは慌てず騒がず、騙されたふり作戦をして警察に連絡だ。
「で、どこに届ければいいですか」
「あなたの自宅です」
 階下のキッチンで人のいる気配が……。
 
 
 

【300文字小説】

通達

 
「おいおい、また本社の安全対策委員会から変な通達が来たぞ」

  今後、一切の紙の使用を禁止します。
  連絡は社内メールを使用し、
  文書は電子ファイルで作成してください。

「なんだって? もう、紙を使っちゃいけないのか」
「どうしてだ?」
「わが社もペーパーレスの時代ってことかい?」
「トイレットペーパーはいいのか?」
「先週、カッターやハサミの使用が禁止されたばかりだよ」
「ダンボール箱を開けるときにだれかが怪我したんだってさ」
「なんでも禁止すりゃいいってもんじゃないだろ。まったく」

「とりあえず、この通達、そこのバインダーにファイリングしといてよ」
「はい」

「あ、痛い! 紙で指切っちゃった」
「通達が来るのが遅かったか……」
 
 

2011年6月23日木曜日

得したいと思っている

 検索した本が一円だったりするとその日一日気分がよろしい。でも送料は250円かかる。

 リッター数円の違いで遠くのガソリンスタンドに行き、団子一本食えるなと思う小さな幸せ。その日は団子屋がお休みだった。

 映画を一ヶ月無料で観ることができるフリーパスを手に入れるために、映画を一年間有料で観まくる計画をたてたりする。計画は実現したが、一ヶ月の間、猛烈に映画を観まくるのはスケジュール的にとてもハードだ。

 世の中には、「一億円貯める」だの「こうやって儲けた」だの「貧乏は治る」みたいな本がある。

 すでに成り上がっちゃってる富豪の家に生まれることが選べないのと同様に、成り上がるのに必要な不屈の精神が自然に身につく過酷で不遇な環境に生まれることも選べない。選びたくないけど。

 著者の力説する「こうすれば、こうなる」の「こうすれば」の部分がそもそもできない。読んだ人が著者と同じことをできるかといえば、やっぱり無理な場合が多い。やる気がおきない。めんどうくさい。だるだるイングリッシュのダルさんなのだ。

 空から一万円札が降ってくることもあるようだが、必ずしもその真下にいるとは限らない。
 
 

ネタバレ注意!「127時間」

 2003年、アーロン・ラルストンの事故とその顛末はニュースとなり、「全米が感動」して「映画化決定!」したと記憶している。

 2005年、本人が写った写真を表紙にした手記が出版され、二度目のネタバレ。

 2010年、どんな映画なのかGoogle先生に聞くと、検索結果のタイトルで思いっきりネタバレ。

 2011年、映画の公開に合わせて出版された文庫本のソデに答えが書いてあって(これまでのネタバレを知らない)アマゾンのレビュアーが激怒して星1つ。

 予備知識なしでこの映画を鑑賞するのは難しい。

 最悪、バランスをうまくとりながら山盛りのポップコーンとコーラをのせたトレイを持って真隣に着席したカップルの会話からネタバレする可能性すらある。

 確かに、ネタバレで観る気が半減する映画はある。でも、この映画は違う。

 生きてて良かった。素直にそう思った。アーロン・ラルストンの本も発注した。自分の中で何かが変わった。自分にはまだ両手があって良かったと思った。

2011年6月6日月曜日

【300文字小説】

大自然

 
雲一つない晴天だというのに、何やら穏やかではない。トラブルになっているようだ。
「おい、それ以上近づいたら承知しないぞ」
「お前のほうこそ出て行け」
「この林に入るなっていってんだろっ」
「冗談じゃねぇ」
「やるか!」
「おう!」

しばらくすると、こんどは若者たち集まってきて、いっせいに叫びはじめた。
「おーい、だれか俺と付き合ってくれー!」
「俺の彼女にならないかーい!」
「こいつよりぼくのほうがイケメンだよー!」
「嫁に来ないかー!」

山頂に向かうロープウェイの中ではこんな会話があった。
「やっぱり自然は最高だな」
「たまにはこうして休暇をとって都会を離れるのもいいわね」
「まったくだ。鳥の鳴き声もうるさいくらいだな」