【300文字小説】
移動空間
苦労してタイムマシンを手に入れた。彼女が謎の変死をする前に、もう一度会いたい。
忘れもしないあの日の朝、彼女は殺されたのだ。現場の座標と直前の日時を入力し始動レバーを倒す。
マシンが細かく振動し重力の変化が起こる。しばらく酩酊したようなめまいを感じたが、やがて意識が戻ってきた。
見覚えのある町並み。彼女は学校に行こうと玄関から出てきた。胸の鼓動を悟られないよう、私はタイムマシンのウインドウを少し開け、道を尋ねるふりをして少し会話をした。
怖い。やはり自分にはこれから起こるはずのことを直視できない。
「さよなら」
だが、帰還するためのレバーを倒すのが早過ぎた。マシンの周囲、半径3m以内の空間が移動したのだ。
0 件のコメント:
コメントを投稿