2020年6月19日金曜日
【300文字小説】
幻の味
深夜、繁華街をさまよっていた私たちは、かなり酔っぱらっていた。
「どこですか先輩、その伝説のラーメンってのは? もう眠いっすよ」
「この角を曲がった先だ。あ、あった、あった」
前回は長い行列であきらめた。特製スープの湯気が香る店内に入ると、お客さんはみな一心不乱に食べている。夢にまで見たラーメンだ。
やっと順番がきた。席に着いて注文する。
少し時間がかかりますよと言われた。
「すいません。ラーメンがきたら起こしてください」と、座った途端、後輩はつっぷして寝てしまった。しょうがないやつだな。
ようやくラーメンが運ばれてきた。私はワリバシを割ると、後輩に声をかけた。
「おい、起きろ!」
その声で起きたのは私だった。
(東京新聞:2015年1月25日 入選作品)
【300文字小説】
忘却
会社から駅までの途中にある本屋。今日は大好きな作家の新刊発売日。どれだけ待ち望んだことか。あったあった。
あれ? 並んで置かれているのは同じ作家でまだ読んでいない短編集のようだ。帯には「注意! 何もかも忘れてしまうほどの面白さ!」とある。これもあわせて買っておこう。
運良く席に座れた。さきに短編集のほうを開いてみる。新作は長編なので家についてから一気に読むのだ。
聞きなれない駅名。降りるはずの駅をとっくに過ぎてしまった。宣伝文句の通りじゃないか!
何駅か逆戻りして、ようやく家にたどりついた。
さて、お目当ての長編を読む前に、さっき読んだ短編集のほうは本棚にしまっておこう。
あれ、なんで同じ本がすでにあるんだ?
2013年5月19日日曜日
【300文字小説】
最後の状態
スクランブル交差点の信号が青に変わると、人々は一斉に横断し始めた。
信号が赤になっても、まだ渡りきらない人が慌てることなく歩いている。
あれ? 何も変ってないぞ。ここは千年後の渋谷ハチ公前のはずなのに!
タイムマシンの設定を間違ったのか……。
とりあえず、交番に行って聞いてみよう。
「あのー、すいません。ちょっとお尋ねしますが……」
「あっ、本部と連絡をとるので、ちょっとそこで待ってて」
「はい」
「本部応答願います。古代人一名保護!」
古代人! すると、ここは未来。やったー!
「いやぁー、千年後っていっても全然昔のままですねぇー!」
「当たり前だよ。ここはかつてあった国を最後の状態で完璧に再現した歴史保護区だからな」
2011年6月24日金曜日
【300文字小説】
届け先は…
久しぶりの休暇。今日は昼頃までゆっくり寝ていることにしよう。と思ったとき、枕元に置いてあったケータイが鳴った。
「お仕事中、申し訳ありませんが、大事なお知らせがございまして……」
最近こういう電話が多い。せっかくの休みなのにあまり嬉しくない。適当にあしらうことにする。
「どうでもいいけどいま仕事中なんで切りますよ」
「大事なお知らせを聞きたくないですか」
「はいはい。どんなお知らせですか」
「いますぐ、ありったけの現金を持ってきてください」
正体を現したな。こういうときは慌てず騒がず、騙されたふり作戦をして警察に連絡だ。
「で、どこに届ければいいですか」
「あなたの自宅です」
階下のキッチンで人のいる気配が……。
【300文字小説】
通達
「おいおい、また本社の安全対策委員会から変な通達が来たぞ」
今後、一切の紙の使用を禁止します。
連絡は社内メールを使用し、
文書は電子ファイルで作成してください。
「なんだって? もう、紙を使っちゃいけないのか」
「どうしてだ?」
「わが社もペーパーレスの時代ってことかい?」
「トイレットペーパーはいいのか?」
「先週、カッターやハサミの使用が禁止されたばかりだよ」
「ダンボール箱を開けるときにだれかが怪我したんだってさ」
「なんでも禁止すりゃいいってもんじゃないだろ。まったく」
「とりあえず、この通達、そこのバインダーにファイリングしといてよ」
「はい」
「あ、痛い! 紙で指切っちゃった」
「通達が来るのが遅かったか……」
2011年6月6日月曜日
【300文字小説】
大自然
雲一つない晴天だというのに、何やら穏やかではない。トラブルになっているようだ。
「おい、それ以上近づいたら承知しないぞ」
「お前のほうこそ出て行け」
「この林に入るなっていってんだろっ」
「冗談じゃねぇ」
「やるか!」
「おう!」
しばらくすると、こんどは若者たち集まってきて、いっせいに叫びはじめた。
「おーい、だれか俺と付き合ってくれー!」
「俺の彼女にならないかーい!」
「こいつよりぼくのほうがイケメンだよー!」
「嫁に来ないかー!」
山頂に向かうロープウェイの中ではこんな会話があった。
「やっぱり自然は最高だな」
「たまにはこうして休暇をとって都会を離れるのもいいわね」
「まったくだ。鳥の鳴き声もうるさいくらいだな」
2011年5月25日水曜日
【300文字小説】
新入社員
「今度配属された新入社員はどうだい?」
「正確に仕事をこなすやつですよ。まるで機械のように」
「無駄なおしゃべりは一切しないし、勤務態度もいたって真面目です」
「ただし、あんまり人付き合いはよくないですね。酒やタバコも全くやらないそうです」
「いまどき、珍しくないだろ。そういうのは」
「でも少し変わっているよ。あいつ」
「確かに。メシに誘っても、ぜんぜんのってこないしな」
「他人と一緒に食事をするのが嫌いなんだろ」
「あいつの近くで、モーターが回るような音を聞いたっていう噂もありますよ」
「そんな。まさかロボットってわけないよな。ははは。あれ? 今日はまだ見てないぞ」
「充電のために休みますって連絡が入っています」
2011年5月16日月曜日
【300文字小説】
宿題
「先週出された宿題、もうできた?」
「いやまだできてない」
「さすがに未提出だと俺たち留年になるぞ」
「そうかもな」
「ずいぶん余裕じゃないか」
「ああ」
「明日が提出の締め切り日なんだぜ」
「そうだな」
「少しはあせらないのか?」
「あせったってできるもんじゃないよ」
「もしかしてお前、もうできているのか」
「実は、もうちょっとで一本目ができるところなんだ」
「マジかよ! だからそんなにのんびりしてるんだな」
「まあね」
「で、どんなのだよ」
「どんなのって、まだ途中だからな」
「もったいぶらずに見せろよ」
「いやだめだ」
「けちくせえな。別に見たからって、マネしないからよ」
「しょうがねえなあ。ほら、これでちょうど300字だよ」
【300文字小説】
更新手続
「はい、お手元の書類の太枠の欄にご記入ください。わからないところは空欄のままで結構です。書き終わったら、こちらに2列で並んでください」
「よろしくお願いします」
「ほうほう、だいぶ苦労なさいましたね」
「もう、ほとほと疲れました」
「ご家族には知らせずに?」
「一応、置き手紙をしてきましたが……」
「いまなら戻れますが、どうなさいますか?」
「もういいです」
「何か希望は?」
「できることなら、もう一度最初からやり直したいです」
「では、ここにサインしてください。その一番下んとこ。はい終わりました。お疲れさま。次のかたどうぞーっ!」
何だかわからないが、やけにまぶしい。
「おめでとうございますっ! 元気な男の子ですよ」
2011年5月1日日曜日
【300文字小説】
天才発明家
「困ったな。パスワード忘れちゃった」
「音声認識で開く金庫なんか発明するからよ。あんた最近、物忘れがひどいのに」
「いや、鍵をしまった場所をよく忘れてしまうから、鍵のいらない金庫を発明したんだ」
「何か思い出すためのヒントはないの?」
「そのヒントも忘れてしまった」
「子供のころ飼っていた犬の名前は?」
「犬は飼ったことない」
「好きな果物の名前は?」
「果物は嫌いだ」
「何かにパスワードを書きとめてなかったの?」
「そのノートをしまった場所を忘れた」
「最悪! 次は物忘れ防止の機械でも発明すれば?」
「うるさいっ!」
カチッ、と音がして金庫が開いた。
「あったよ。そのノートが。どなたか存じませんがありがとうございました」
2011年4月21日木曜日
【300文字小説】
ランドセル
今年はランドセルが飛ぶように売れている。そう、『あの人』のおかげ。
いったいどんな人なのかしら。
「いらっしゃいませ。何をお探しでしょうか」
「ランドセル、なんですけど……」
「こちらの6色をご用意しております」
「その6色、全部ください」
「お買い上げありがとうございます」
すると、このお客様は『あの人』?! ドキドキ。
「では、プレゼント用の包装をして、それぞれにメッセージカードをお付けいたしましょうか?」
「包装はとくに結構です。まとめて自宅に配達してください」
「かしこまりました」
あら? 違うのかしら……。
「パパーッ!」、「パパーッ!」、「パパーッ!」、……
おもちゃ売り場のほうから6人の子供が走って来た。
2011年2月25日金曜日
(300 character novel)
Express that goes seaward
Monday morning. The train to the direction to my office
that was very crowded as usual. Rush-hour.
I came across the idea of taking the train in the
opposite direction, and getting a day off. Express that
goes seaward had come just when I thought so.
I had got on it.
The passenger was few. There were only a few men going
to fishing. After a while, the sea was seen from the
window of the train. The time I should call office had
come.
"Hello? ... I'd like to speak to my manager. ... Is he
absent? ... Please leave a message to assistant manager,
please. ... I take a day off because my grand mother is in
critical condition."
I decided to see the sea today with mind in neutral and
spend the time of half a day. I'll return home after
drinking the beer in the restaurant on the beach.
"Oh, I'm sorry to hear that." I heard the voice of
manager who was going to fishing behind.
The Tokyo Shimbun, The 7th 300 Character Novel, Excellent Prize
【300文字小説】
海へ向かう特急
月曜。いつものように電車はこんでいた。殺人的なラッシュだ。
思いきって反対方向の電車に乗って会社サボっちゃおうかな。そう考えたとき、海へ向かう特急が来ちゃったじゃないですか。
えぇーい。乗っちゃえ。
逆方向だから車内はガラガラ。数人の釣り人が乗っているくらいだ。
しばらくすると、車窓に海が見えてきた。会社に欠勤の連絡を入れる時間だ。
「もしもし。部長につないでください。え? 今日は休み? じゃあ次長に伝言をお願いします。今日、祖母が危篤になったんで休みます」
やった。半日くらいボーッと海を眺めて、浜辺のレストランで大ジョッキ飲んでから帰ろう。
「そうか。それは気の毒だな」
背後から、釣り人姿の部長の声が…。
(東京新聞:第7回300文字小説賞 優秀賞 受賞作品)
2011年2月14日月曜日
【300文字小説】
間違い電話
「もしもし、吉田さんを出してください」
「あいにく、こちらに吉田というものはおりませんが、どのようなご用件でしょう?」
「その人、昨日うちの店で飲んだあと財布忘れたって言って、飲み代とタクシー代って言って、わたしから5万借りてったのよ。それで、貰った名刺を見て電話かけてるんだけど!」
「ほほう。5万ですか……。ちなみにその名刺には何という会社名が印刷されていますか?」
「ネ・タレサマダ」
「ネ・タレサマダ? 後ろから読んでみてください」
「えっ、まさか……」
「簡単に知らない人を信用しないようがいいですよ」
「そ、そうですか……。先程は、失礼しました。いい勉強になりました……(ガチャ)」
また一件、仕事を終えた。
【300文字小説】
集中力
「あっちゃーん! おもちゃ片付けて早く下に降りてきなさーい」
「はーい」
ぼくは部屋中に散らばったおもちゃを見つめて集中した。
「さあ、ごはんよ」
「いっただきまーす」
「あっちゃん。うち以外で、それやっちゃだめよ。
ちゃんと『お醤油をとってください』って言ってちょうだい。
他の人はそんなことしないの。手を使ってとるのよ。わかった?」
「わかってるよ、ママ。でも、かずくんも、ゆきちゃんもできるんだって」
「本当か? それは。パパの子供の頃は、そんなこと誰もできなかったぞ。
見ただけで遠くにある物を引き寄せるなんて」
「あら、そう言えば今日の夜、月蝕ですって」
「あ、思い出した。理科の宿題で、月蝕の観察をしてきなさいって」
【300文字小説】
移動空間
苦労してタイムマシンを手に入れた。彼女が謎の変死をする前に、もう一度会いたい。
忘れもしないあの日の朝、彼女は殺されたのだ。現場の座標と直前の日時を入力し始動レバーを倒す。
マシンが細かく振動し重力の変化が起こる。しばらく酩酊したようなめまいを感じたが、やがて意識が戻ってきた。
見覚えのある町並み。彼女は学校に行こうと玄関から出てきた。胸の鼓動を悟られないよう、私はタイムマシンのウインドウを少し開け、道を尋ねるふりをして少し会話をした。
怖い。やはり自分にはこれから起こるはずのことを直視できない。
「さよなら」
だが、帰還するためのレバーを倒すのが早過ぎた。マシンの周囲、半径3m以内の空間が移動したのだ。
2011年2月13日日曜日
300文字小説
おそらく、2004年に誕生した小説の新ジャンル 「300文字小説」
たぶん、2007年に東京新聞で投稿コーナーが開設され、
2011年1月で「300文字小説賞」は第7回を数えます。
入選作品は、サンデー版とウェブで、
毎週日曜日に3点ずつ掲載され、
半年毎に最優秀賞1点と優秀賞数点が選ばれます。
ところが、この「300文字小説」、
数百年の歴史がある俳句や短歌と違って、
まだ手垢の着いていない新ジャンルの投稿系趣味であるだけに、
超マイナー。Google先生に聞いてもあまり教えてもらえません。(笑)
でも意外とハマります。
小説家になった気分。\(^-^)/
今回、その第7回で優秀賞を受賞したのを機に、
「300文字小説」の創作を支援するページを作りました。
もっとはやく作っておけばよかった。すごい便利。(自画自賛)
今後、これまでの没原稿や習作などを
このブログに掲載していくことにしました。
たぶん、2007年に東京新聞で投稿コーナーが開設され、
2011年1月で「300文字小説賞」は第7回を数えます。
入選作品は、サンデー版とウェブで、
毎週日曜日に3点ずつ掲載され、
半年毎に最優秀賞1点と優秀賞数点が選ばれます。
ところが、この「300文字小説」、
数百年の歴史がある俳句や短歌と違って、
まだ手垢の着いていない新ジャンルの投稿系趣味であるだけに、
超マイナー。Google先生に聞いてもあまり教えてもらえません。(笑)
でも意外とハマります。
小説家になった気分。\(^-^)/
今回、その第7回で優秀賞を受賞したのを機に、
「300文字小説」の創作を支援するページを作りました。
もっとはやく作っておけばよかった。すごい便利。(自画自賛)
今後、これまでの没原稿や習作などを
このブログに掲載していくことにしました。
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