【300文字小説】
幻の味
深夜、繁華街をさまよっていた私たちは、かなり酔っぱらっていた。
「どこですか先輩、その伝説のラーメンってのは? もう眠いっすよ」
「この角を曲がった先だ。あ、あった、あった」
前回は長い行列であきらめた。特製スープの湯気が香る店内に入ると、お客さんはみな一心不乱に食べている。夢にまで見たラーメンだ。
やっと順番がきた。席に着いて注文する。
少し時間がかかりますよと言われた。
「すいません。ラーメンがきたら起こしてください」と、座った途端、後輩はつっぷして寝てしまった。しょうがないやつだな。
ようやくラーメンが運ばれてきた。私はワリバシを割ると、後輩に声をかけた。
「おい、起きろ!」
その声で起きたのは私だった。
(東京新聞:2015年1月25日 入選作品)
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